
「西洋薬だけではなくて、漢方薬についても詳しくなりたい」「東洋医学に興味がある」など、漢方に関心がある薬剤師は決して少なくないことでしょう。
ですが、漢方薬局はどんな業態で、漢方薬剤師として働くにはどういった能力・資格が必要なのかは意外と知られていません。
そこで、今回は漢方薬局、漢方薬剤師について細かくご紹介していきます。
1. 漢方薬局とは
そもそも、「漢方薬局」とはどのような薬局を指すのでしょうか。
実は漢方薬局に明確な定義というものはありません。
調剤薬局業界やドラッグストア業界と異なり、全国にチェーン展開している大手企業もないため、その業態は店舗ごとにさまざま。
それらのサービス内容は下記のように分類できます。
■1.1 生薬を取り扱う「漢方特化型」
木の根などが入ったガラス瓶がズラリと並び、店内に入ると漢方独特の匂いがするーー
多くの薬剤師が「漢方薬局」と聞いてイメージするのがこの業態だと思います。
生薬しか扱っていないという昔ながらの店舗もありますが、現在では生薬と既製品の両方を取り扱うのが主流です。
なかには、鍼灸師が常駐しており、漢方薬と鍼灸を併せてケアを行う店舗もあるようです。
■1.2 医療用漢方薬の処方が中心的な「調剤薬局型」
店内の風景としては、いわゆる普通の調剤薬局と代り映えしません。
業務内容も医療用漢方の調剤・処方が業務の中心であり、調剤薬局勤務の経験がある薬剤師にとっては最も職場に慣れやすい業態と言えるでしょう。
一方で、生薬の取り扱いをしていない店舗だと物足りなさを感じるかもしれません。
■1.3 一般用漢方・サプリメント中心の「ドラッグストア型」
正確に言うと漢方「薬局」と称するのは誤りですが、美容・ダイエットなどに効果がある漢方薬の販売をサービスの主軸としている店舗もあります。
店内のデザインも洗練されていて、ほかの業態とは一線を画します。
取り扱う商品は一般用漢方になるため、登録販売者で対応できるのが実状。
薬剤師資格を生かして働きたいという薬剤師には不向きですが、広く一般用漢方について知りたいという方は一考の余地があります。
2. 漢方薬局の業務内容
■2.1 働き方の特徴
●漢方相談(カウンセリング)
漢方薬局の業務で最も特徴的なのは、漢方相談(カウンセリング)です。
一般的な調剤薬局において患者情報を得るためのコミュニケーション手段は、服薬指導の際に行われる会話やお薬手帳、あとは初来局時の質問票くらいのもの。
しかし、漢方薬局では、なんと患者1人ひとりに1~2時間かけて漢方相談を行います。
なぜなら、漢方薬は患者に合わせて生薬の種類や分量を変えていくものだからです。
不調の症状そのものだけでなく、普段の生活スタイルから性格・性質まで、患者さんのことを詳細に把握する必要があるのです。
そのため、患者のプライバシーに配慮して個室や半個室をもっている店舗が多いようです。
●長期的な関係づくり
一般的な調剤薬局でも「かかりつけ薬剤師」が広まりつつありますが、漢方薬局ではかねてより同じ漢方薬剤師が患者さんをずっと担当するスタイルが大原則でした。
漢方薬局を訪れる患者は不妊治療が最も多く、その次にダイエットや美容といった体質改善が続きます。
これらの治療・改善は長期にわたりますし、漢方相談などを通して培われた信頼関係がないことには、治療を続けることが難しいからです。
■2.2 漢方薬局の1日
●日中
朝は9~10時の開店が一般的。日中は予約患者の漢方相談に対応します。
この時期に来局する患者は、専業主婦が中心。
不妊治療の相談が最も多く、次いでダイエットや美容目的の患者も訪れます。
処方箋を受け付けている店舗の場合は、高齢者の患者も利用も多いです。
●夕方以降
漢方薬局が忙しいのは、会社が終わる17時~20時ごろ。
この時間帯は、働きながら不妊治療を行っている20~40代の女性や、ダイエットや体質改善に取り組むサラリーマンなどの来局が続きます。
店舗によりますが、閉店後に勉強会を行う漢方薬局も多いようです。
西洋薬に比べて漢方薬の勉強会は少ないため、自主的に機会をつくっているのですね。
[ポイント]
- 漢方薬局は店舗ごとに取り扱う商品やサービスが異なる
- 漢方相談(カウンセリング)がサービスのキモ
では続いて、こうした漢方薬局で働く漢方薬剤師についてもご説明していきます。
3. 漢方薬剤師になるには
■3.1 漢方薬剤師に必要な資格とは?
薬剤師の場合、漢方薬を取り扱うために新しく資格等をとる必要はありません。
学習意欲の高い薬剤師は自己研さんとして、日本薬剤師研修センターが運営している「漢方薬・生薬認定薬剤師」の認定資格をとる人もいます。
つまり、「漢方薬剤師」というのは通称のようなもの。登録販売者の資格をもっている人でも販売できます。
実際に、処方箋受け付けの有無にかかわらず、漢方薬局では薬剤師免許よりも「中医師(国際中医師)」をもっている人が歓迎される傾向があります。
■3.2 中医師(国際中医師)とは
中国では、
― 西洋医学を扱う「西洋医師」
― 中医学(漢方)を扱う「中医師」
の2つの医師国家資格があります。
「国際中医師」は、中国政府の外郭団体が運営している認定資格で、中医師に準ずる知識を有する者として認められます。
日本において国際中医師の扱いは、一般的な民間資格と大差ありません。
当然ながら、国際中医師をもっていても、薬剤師のように医療用医薬品は取り扱うことは違法です。
その代わり、国際中医師は医療職以外の人でも取得できるという特徴もあります。
中医学の基礎理論をはじめ漢方についての知識が身につくため、漢方薬局では国際中医師を有した登録販売者などが、薬剤師と同等以上に活躍しているのです。
参考:中医学アカデミー(https://www.iatcm.com/doctor_exam2.htm)
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4. 漢方薬剤師の働き方
■4.1 営業時間は長め、休日開く店舗も多い
漢方薬局は長時間の漢方相談が業務の核。患者1人あたりにかける時間も長くなるため、仕事終わりの患者にも対応できるように夜20時頃まで営業している店舗が多いです。
同様に平日来局できない患者のため、休日も営業している店舗も少なくありません。
■4.2 雇用形態は正社員薬剤師を推奨
薬剤師といえば、正社員以外にもパートや派遣など、多様な働き方ができるイメージがあるかと思います。しかし、こと漢方薬局に関しては正社員薬剤師として働くことをおすすめします。というよりも、正社員薬剤師以外の募集はほとんどないのが現状。
漢方薬剤師には1人の患者を長期間にわたって見ていくことが求められるため、長期勤続する見込みの薄いパート薬剤師や派遣薬剤師の採用には消極的なのです。
仮に採用した場合でも、パート薬剤師は医療用漢方の処方箋対応のみなど、業務内容に差がつけられているケースもあるようです。
■4.3 年収は薬剤師業界ではかなり低め
残念ながら、漢方薬剤師の給与はかなり低めの水準。
未経験の場合は年収400万円程度が相場です。
国際中医師をもっている、漢方薬剤師としての経験がある場合でも年収450万円程度とかなり抑えめの金額です。
給与が低い理由は2点あります。
まず1点目は、「薬剤師資格に付加価値がほとんどない」ということ。
漢方薬剤師なのに何を言っているんだとお思いになるかもしれません。しかし、既製品の医療用漢方を処方・調剤しない場合、漢方薬局では薬剤師資格がなくても問題なく業務を行えるのです。
そのため、薬剤師手当がない店舗も珍しくないですし、国際中医師と登録販売者をもっている人材と普通の薬剤師であれば、登録販売者の方が評価されます。
「あんなに苦労して薬剤師資格をとったのに、そこを評価してもらえないのはつらい」と、給与やプライドがネックとなって漢方薬剤師をあきらめたという声はよく聞こえてきます。
もう1点の理由は「買い手市場」であるということ。
薬剤師業界は一般的に売り手市場であり、薬剤師に有利な就職・転職ができると言われています。
しかしながら、漢方薬局は店舗数に対して、働きたいという薬剤師の数が充足している稀有な業界。
漢方薬局側が採用する薬剤師を選り好みできるため、条件面でも強気な設定になりやすいのです。
[ポイント]
- パート募集はほとんどなし、やるなら正社員薬剤師として勤務
- 給与は低水準であることを覚悟する
5. 漢方薬剤師の求人
ではここで漢方薬剤師の求人についてみてみましょう。
【求人例1】
【求人例2】
※こちらはマイナビ薬剤師の求人例です。お問合せ時にすでに掲載が終了している可能性もあります。ご了承ください。
マイナビ薬剤師では約2000件の漢方薬剤師求人を掲載しています。
漢方に特化した漢方薬局もあれば、調剤薬局で漢方薬の取り扱いがある薬局求人もあります。
自分の思考に合った求人を自分で探すなら、マイナビ薬剤師がおススメです。
6. 漢方薬剤師に適した志向
■6.1 どれだけ漢方に熱意を傾けられるか
これまで述べてきたことからお分かりいただけたと思いますが、漢方薬剤師は薬剤師業界のなかでも、かなりニッチな職種です。
土日の出勤がありますし、年収も低い。単純な条件面だけで言えば一般的な調剤薬局の方がワークライフバランスをとりやすいでしょう。
漢方薬剤師にそれを上回る魅力があるとしたら、それは「やりがい」です。
一例として、筆者の知り合いの漢方薬剤師の話をご紹介しましょう。
漢方薬局には、病院で不妊治療を受けたけど効果が出なかった人もよく訪れると言います。そうした、わらにもすがる思いの方でやってきた女性に寄り添って、
漢方相談を通して悩みや不安を解きほぐす。そして、最適な漢方薬を処方して妊娠がかなったときの感動は何事にもかえられないと目を輝かせます。
不妊治療を終えた彼女いまでも、顔を出しに来るなど関係性は続いているといいます。
このように、漢方を通して患者さんと深い関係をつくることに魅力を感じられるならば、あなたは漢方薬剤師に向いているでしょう。
■6.2 漢方薬剤師の求人はどうやって見つける?
漢方薬局は買い手市場なため、一般的な調剤薬局やドラッグストアと比較してかなり求人数が少ないです。
そのため、自分の力で求人サイトなどを探してみてもあまり成果を上げられないと思います。
おすすめは薬剤師専門の紹介会社を利用すること。
紹介会社もバラエティに富んだ求人をもっているとまでは言い切れませんが、それでも漢方薬剤師になりたいというニーズは理解しているため、必ずいくつかの求人を紹介してくれます。
特に、下記に取り上げている3社は漢方薬局についてもネットワークをもっていると定評があります。
まずは現在の応募状況を問い合わせてみてはいかがでしょうか。
7. [まとめ]漢方薬剤師について
- 漢方薬局は「漢方特化型」「調剤薬局型」「ドラッグストア型」に大別される
- 漢方薬局での仕事内容の中心は漢方相談
- 漢方薬局では「薬剤師免許」や「調剤経験」より「中医師(国際中医師)」の資格の方が求められる
- 漢方薬剤師は正社員でフルタイム勤務が原則
- 漢方薬剤師の年収相場は一般的な薬剤師の年収水準よりかなり低く400万円台
- 漢方薬局の業界は買い手市場。良い求人を見つけるには紹介会社を利用する方が良い
いかがでしょうか。漢方薬剤師・漢方薬局について詳しく知ることで、これまでぼんやりと考えていた想像と現実のギャップに驚いた薬剤師も多いのではないかと思います。
「どっぷり漢方薬剤師とまではいかないけど勉強はしたい」という方は、漢方薬もよく出る一般的な調剤薬局で経験を積むのが最も容易です。
そうした細かい要望にも紹介会社は応えてくれますので、漢方薬に興味をもっている薬剤師はまずはキャリア相談から始めてみるのもおすすめですよ。
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